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内側に潜む

 「Darstellung der inneren Wirklichkeit- Auseinandersetzung mit subjektiver Wahrnehmung anhand eines mehrdimensionalen Perspektivsystems-」(内側の写実表現ー主観的知覚と多重遠近法ー)」を主題として2013年より、現代絵画として人間の脳内おける主観的空間認識、そしてその表現の研究・制作を続けています。

     近年の研究で、脳に集められる情報の約80~90%は視覚によるものであるということが明らかになっています。また人体の構造的にも人は決して同じ世界を知覚できないことは、これまで心理学、哲学、脳科学などの多くの分野で研究が行われてきました。これらを通して見えることは、私たちは常に世界を個人的に、主観的に知覚しているということです。

  これまで数千年という長い絵画史の中で、多くの画家たちは「人間が知覚した立体世界を、平面にどう表現するか」という主題に向き合って来ました。
そして、画家が制作し、鑑賞者が鑑賞するまでの工程の中で、二度の「主観」を経ています。一度目は作家が世界を知覚し、二次元に表現する時。二度目は鑑賞者が作品を知覚する時。つまりこの「圧縮と解凍」のプロセスの最中、作品は二度の主観的認識による変化を避けては通れず、その変化は両者の「主観的認識」に左右されます。これは哲学者カントも述べている様に、人間は知覚した世界を、知識、経験、感情や記憶など、趣味判断における主観的なフィルターをかけて処理しており、これが主観的認識に大きな影響を与えています。

  私のこの研究作品では、人間が知覚し、そして脳内で再構成する「主観的な世界」を起因とする空間表現を行なっています。この作品では西洋、アジアの様々な時代に見られた特徴ある遠近法を組み合わせ、画面上に多重のレイヤーを作り出します。モチーフの前後関係を複雑に重ねることで、画面の奥行きを複雑化し、時間軸や認識のズレなどを表現しています。これはつまり脳内で再構築される前の、様々な要素で解体された純粋な知覚情報の抽出と、その再構築を行なっています。また前述したように、作家と鑑賞者の間で内在的に二度行われる主観的認識を利用し、鑑賞者がより自由に、そして主観的に作品を脳内で再構築できることを目的とした「装置」として存在しています。つまり私の作品は、作品単体で完結するものではなく、鑑賞者の主観性から生まれるいくつかのフィルターを通して分解され、鑑賞者の脳の中で改めて再構築されることで、初めて完成します。私の作品はそういった意味で、キュビズムが行った人間を介さない世界の空間表現と対極に位置し、非常に内側の人間的な構造を抽出した空間表現です。


  この内在的に潜む、作家と鑑賞者の間での二度のプロセスこそが、私のメインシリーズのタイトル《内側に潜む》の由来であり、これは美術の性質そのものを具現化していると言えるはずです。

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