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《Le bocal de poisson soluble》
- 溶ける魚の金魚鉢 -
Mitsumata-washi, paper clay
Variable dimensions, 2024
Masaki Hagino
Sitespecific work in "Mensroom" at Kato family house in Kameyema, Mie, Japan
1924年に発表されたアンドレ・ブルトンの『シュルレアリスム宣言』『溶ける魚』から今年2024年は100周年です。シュルレアリスムを牽引したブルトンに最大限の敬意を込めたこのインスタレーションを、どうしても今年中に制作したいと思っていました。
The year 2024 marks the 100th anniversary of André Breton's "Manifeste du surréalisme(Manifesto of Surrealism)", and "Poisson soluble(Melting fish)" published in 1924. I wanted to create this installation in honor of Breton, who led the Surrealist movement, and it was essential for me to complete it this year.
この作品は、人間の脳と言語の関係性について、アンドレ・ブルトン(André Breton, 1896-1966)の著書『シュルレアリスム宣言』および『溶ける魚』を引用し、 考察を加えたものです。
シュルレアリスム運動の中心人物であったアンドレ・ブルトンは、『シュルレアリスム宣言』(1924)の中で次のように述べています。「溶ける魚といえば、私こそが その溶ける魚なのではないか。(中略)人間は自分の思考のなかで溶けるものなのだ!」。さらに彼の手記には、「ひとつの金魚鉢が私の頭の中をめぐっていて、 その鉢には、悲しいことに、溶ける魚たちしかいないのだ」とも記されています。 これらの言葉を引用し、本作品ではこの室内空間を一つの「脳内の金魚鉢」と 見立て、空間表現を行っています。ブルトンのシュルレアリスム的な思考と結び つけ、言語と脳の複雑な関係を表現する試みです。
また、本展示では亀山市の素材を取り入れ、地元企業との共同制作を掲げてい ます。今回は「みつまたを愛する会」と 1899 年創業の大豐和紙工業株式会社様 より、三椏を原料とした伊勢和紙、その原料である三椏の素材をご提供いただき ました。作品では、三椏の木の芯や皮を使用し、金魚鉢の中にある水草を模して います。
さらに、空間を泳ぐ金魚たちは、ブルトンの『溶ける魚』の原文や、私自身が ブルトンに倣って自動書記を用いて記述した文章を纏っています。自動書記とは、 シュルレアリスム運動でよく用いられた、意識的な干渉を排除し、無意識の言葉 をそのまま書き出す手法です。この作品では、言語と思考がどのように脳内で処理されるのか、そしてブルトンが指摘したシュルレアリスムの本質に迫る表現を試みています。
This work explores the relationship between the human brain and language, drawing on André Breton's writings, particularly "Manifesto of Surrealism" and "The Melting Fish," to offer insight into these themes.
André Breton, a central figure of the Surrealist movement, states in the "Manifesto of Surrealism," "Speaking of the melting fish, am I not that melting fish? (ellipsis) Humans are something that melts within their own thoughts!" He further reflects, "A fishbowl is swimming around in my head, and sadly, it contains only melting fish."
By referencing these words, this work envisions the indoor space as a "fishbowl of the mind," engaging in spatial expression. It seeks to connect Breton's Surrealist thought with an exploration of the complex relationship between language and the brain.
Moreover, this exhibition incorporates materials from Kameyama City, collaborating with local businesses. This time, we received Ise washi paper made from mitsumata and the raw mitsumata materials from the "Mitsumata Lovers Club" and Daiho Washi Industry Co., founded in 1899. The artwork uses the core and bark of the mitsumata tree, mimicking aquatic plants found within the fishbowl.
Additionally, the goldfish swimming through the space are adorned with texts from the original version of Breton's "The Melting Fish," as well as writings I created using automatic writing, inspired by Breton. Automatic writing is a technique often employed in the Surrealist movement, which eliminates conscious interference to directly transcribe words from the unconscious. This work attempts to delve into how language and thought are processed in the brain, exploring the essence of Surrealism as pointed out by Breton.
金魚鉢
ブルトンは無意識下の思考は自由で、かつ流動性があることからその様子を「脳内に溶ける魚がいる」と表現しました。しかしながら脳内という狭い空間は、無意識下の思考という名の魚(金魚)にとって狭く、様々な制限を受けた空間でした。外側からその様相を伺うことができるが、中にいる金魚達はその枠を越えることができないこの様相(脳内)を金魚鉢となぞらえました。
今回この300x300x250cmほどのこの空間を金魚鉢として捉え、その中を金魚が自由に泳いでいる様子を作り出しました。
和紙の素材のひとつでもある三椏(みつまた)の皮、木の芯の部分を金魚が身体を潜める水草のように設置することで、金魚鉢の中の様子を演出しています。
文字をまとった金魚
シュルレアリスムの起源は、ブルトンが理性を中心とする近代的な考え方を批判し、友人の詩人フィリップ・スーポーと始めた「オートマティスム(自動記述)」です。オートマティスムは、もともと生理学や心理学の用語で、意識の介入なしに動作を行ってしまう現象を指していました。シュルレアリストたちは、この現象を表現に応用し、理性や既成概念にとらわれず、浮かんでくることを自動的に次々と速記することで、意識下の世界を表そうとしました。そしてブルトンは1924年に『シュルレアリスム宣言』そして『溶ける魚』を発表しました。
前述のとおり、ブルトンは脳内で自由に動く無意識下のことを溶ける魚と捉えており、今回のインスタレーション作品では、金魚自体にこのブルトンの『溶ける魚』の一節をそれぞれ纏わせました。こうしてブルトンの脳内で生まれた自由な魚たちを、ここに顕現させることを目的としています。
三椏という素材
三重県亀山市で行われる亀山トリエンナーレでの展示に際して、地元企業との連携、そして地元の素材を何か利用できないかと考えました。亀山市には和紙の原料のひとつである三椏(みつまた)の群生地があります。春先には綺麗な花を咲かせることから、県外からのツアー客も多く訪れるような隠れた産業でもあり、またこのみつまたを使って和紙を製紙されているのが、三重県唯一の和紙製紙業社の大豐和紙工業株式会社です。
展示に際して今回はこのみつまたの皮や木の芯、そしてみつまたの和紙を素材提供いただくことができ、このご協力によって大量のみつまた素材を使った本作品が実現しました。
伊勢和紙(大豐和紙工業株式会社)
https://isewashi.co.jp/
この作品の制作プロセスについての記事はこちら!
https://note.com/masakihagino_art/n/n6efcf6c542a1
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